川崎桜本に住む在日朝鮮人一世の「はんめ(おばあさん)」たちの撮影をはじめたのは、1999年のこと。きっかけは、はんめたちと同世代の母の死でした。遠く故郷・朝鮮半島を離れ、日本で終えた生涯。「母や在日一世たちは、幸せだったのだろうか?」。
私は小さなお墓を創るような気持ちで映画『花はんめ』(2004年公開)をつくりました。
映画には続きがあります。春のたんぽぽ狩りや、同じように戦争を体験した沖縄のおばあたちとの交流、はんめたちによる戦争反対のデモなど。
『花はんめ』に登場するはんめの多くは亡くなりましたが、今、次世代(といっても80〜90代)のはんめたちが、戦争の記憶を辿りながら語り、作文を書き、絵を描き、生きた足跡を必死に残そうとしています。
私は撮影の中で、戦争という絶望をしたたかに生きたはんめたちから、小さな希望を受けとり続けてきました。そしてその一瞬の輝きを記録したい、記憶したいと思ってきました。
一方で、植民地支配から111年経ってもなおヘイトが絶えない現実に憤りを覚えます。22年の記録の中には、若者たちが民族差別にあらがう姿も収められています。その彼らが最前線でヘイトと闘う姿に胸が締め付けられると同時に、記録しなければと思うのです。
今回、同時に2本の映画をつくろうという思いに至りました。川崎桜本での22年の記録と記憶を紐解き、まったく違った視点から2本の映画を紡ぐことで「在日の現在地」のひとつのあり方を浮き彫りにしたいと考えます。
ふたつの物語は、絶望の中から希望を求め、見出す人たちの物語です。